世界中で猛威をふるうCOVID-19は、多くの犠牲をもたらすと同時に、それまでの行動様式を一変させる契機ともなった。人間の力で制御しきれないウィルスの猛威は、あらためて自然への畏怖の念を思い起こさせ、地球規模での環境破壊が急速に進む中で、立ち止まるきっかけがもたらされたのではないだろうか。
カール・ブッセの「山のあなたの空遠く「幸い」住むと人のいふ」の詩句にもあるように、山は洋の東西を問わずはるかな憧れを掻き立ててきた。山は聖地として信仰の対象となっていることが多く、修験道の修業の場や霊山として恐れられ、あるいは敬われている。山は多様な生物をはぐくむ豊かな場所であると同時に、異形の者たちがうごめき、異世界への通路としても機能する。そびえ立つ山は人間に限界を超えるよう挑みかける一方、暮らしのそばに寄り添い、四季折々に自然の恵みをもたらしてきた。 本展では、ヨーロッパと日本の山をモチーフとした作品から、こうした山の持つ神秘的な力や魅力に源を探る。東洋と西洋において「山」がどのようなシンボルとして機能しているか、相互に比較を行いつつ、古来敬われ、あるいは親しみを込めつつも畏れられてきた山の様々な表情の一端を明らかにしてみたい。
関連行事では、山水画研究者や哲学者らをゲストとして招きながら、作家を交えて「山」の汲みつくせない魅力に迫る。
主 催|「山怪」展実行委員会
助 成|公益財団法人 西枝財団、ポーランド広報文化センター
後 援|日本ポーランド協会関西センター 特定非営利活動法人フォーラム・ポーランド組織委員会
企 画|加須屋明子
お問合せ|
E-mail:mountainkyoto@gmail.com
URL : https://www.facebook.com/mountainkyoto
山怪展YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UClFthV0PoAaU-MSlEmbJBDA
1963年兵庫生まれ。京都大学文学部大学院博士後期課程単取得満期退学(美学美術史学専攻)。ヤギェウォ大学(クラクフ、ポーランド)哲学研究所美学研究室留学。国立国際美術館主任学芸員を経て、現職。主な展覧会「転換期の作法」2005年(国立国際美術館)、「死の劇場」2015年(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)など。主な著書『ポーランドの前衛美術』(創元社、2015年)、『現代美術の場としてのポーランド』(創元社、2021年)など。2011-2020年龍野アートプロジェクト芸術監督。
1997年兵庫県生まれ。京都市立芸術大学美術研究科日本画専攻在籍中。2019年春季創画展入選。2020年「山のフォルム」個展(京都市立芸術大学小ギャラリー)開催。山をモチーフに平面表現に取り組み、季節によってさまざまな表情を見せる山並みを、絵の具の素材としての圧力を活かしながら力強く独特の質感で表現。
1985年生まれ、ポズナン(ポーランド)在住。2012年ポズナン美術大学卒業。同大学博士学位取得。主にオーディオビジュアル作品を制作する。ポズナン芸術大学のメディアアート部長。同大学にて音響スタジオ「オーディオ・スフィア」運営。音、建築、写真、彫刻など様々なメディアを使用し、コンテンポラリー・ナレーション、対人コミュニケーションの形式と言語、意味論や経済的なコミュニケーションのパターンに焦点を当てたインスタレーションを発表。国内外の多くの展覧会に参加、2019年「セレブレーション-日本ポーランド現代美術展-」及び龍野アートプロジェクト2020にも出品。
1989年東京生まれ。2015年東京藝術大学先端芸術表現科卒。2017年同学アニメーション専攻修了。2020年同研究科博士課程入学。墨絵によるアニメーション作品は国内外で高く評価され、《RADIO WAVE》は32映画祭21の国と地域で選出、《CASTLE》(2019)はETIUDA&ANIMA映画祭など13映画祭にて受賞、68映画祭で入選。龍野アートプロジェクト2019、2020に出品、2020年より龍野国際映像祭企画。2021年に淡路人形浄瑠璃「戎舞+」のオリジナルアニメーションを担当。
1985年ルブリン(ポーランド)生まれ、クラクフ美術アカデミー(ポーランド)とベルリン芸術大学(ドイツ)で学ぶ。写真や映像を用いたインスタレーションで知られ、古い写真やオブジェなどを用いながら、それらの意味を読みかえ、歴史に埋もれそうになる物事や美術史上の出来事を蘇らせる。2013年ワルシャワ近代美術館とポーランド映像インスティテュート映像賞受賞。2014年から2015年にかけてアムステルダム市立美術アカデミー滞在制作。ベルリンとワルシャワ(ポーランド)を拠点に国際的な活動を続ける。龍野アートプロジェクト2016、2018に出品。
1983年茨城県生まれ。2008年京都市立芸術大学美術学部構想設計専攻卒業、2010年同学大学院美術研究科絵画専攻造形構想修了。2012年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012」出品。様々な素材や技法によるインスタレーションを手掛ける。「山」を対象として、登山を実践することで獲得するリアルな身体経験や記憶、また登山用具や山岳史といったアウトドアカルチャーを積極的に取り込み表現。「遠い」「近い」といった距離感覚・時間・スケールの混ぜ合わせで生まれる「遠近」のズレ、その歪みを起点とした測り直しによって現在位置の再認識を促す。
クラクフ(ポーランド)生まれ、在住。ヤン・マテイコ美術アカデミー絵画科卒業。絵画、ドローイング、写真などを手掛け、精神医学芸術協会でも活動する。ポーランド芸術家連合メンバー。ヴィスニチ城博物館に作品が収蔵され、数多くの個展開催、2016年ウェンチツァ美術館(ポーランド)の「自由の狂気」展など多数のグループ展に参加。クラクフ現代美術館での国際会議でプレゼンテーション実施。
京都に住みつき、仕事をし始めてまもなく20年。その間、15年前の2006年からふとしたきっかけで東山山系に分け入り、以来、718回(2021年7月2日現在)、比叡山に登拝している。主には雲母坂を上り下りするが、それ以外のルートを辿る時もある。夜中に懐中電灯なしに山歩きすることもある。東山修験道と称した山歩行(ほぎょう)を通じて、山の奥深さや循環の絶妙さと四季の移り行きや自然の威力を目の当たりにしてきた。その経験を踏まえて、「山怪ー異世界への憧れと畏れ」について語りたい。
1972年、青森県むつ市に生まれる。東北大学大学院文学研究科博士課程後期3年の課程修了。博士(文学)。黒川古文化研究所研究員を経て、2015年より京都市立芸術大学に勤務。総合芸術学および保存修復選考を担当。専門は東洋美術史で、山水画、花鳥画などを研究。著書に『唐栄山水画研究』(中央公論美術出版、2015年)がある。
1965年生まれ。京都大学文学部哲学科(美術専攻)、同大学院修了。甲南大学教授、情報科学芸術大学院大学(IAMAS・岐阜県大垣市)教授、京都大学大学院文学科教授を経て現職。著書に『情報と生命』(新曜社・室井尚氏と共著)、『<思想>の現在形』(講談社選書メチエ)など。展覧会企画として「SKIN- DIVE」展(1999年)、「京都ビエンナーレ2003」、「大垣ビエンナーレ2006」など。専門の研究のみならず、展覧会の企画・運営・雑誌の編集など、現実社会のフィールドで活躍。